体内の鎮痛機構
体内の鎮痛機構が主に4つあり、疼痛緩和してくれます。どのような仕組みで痛みがなくなるのでしょうか?
①内因性鎮痛物質:生体内のモルヒネ様物質による鎮痛効果
②下行性痛覚抑制系:セロトニン作動性神経系、ノルアドレナリン作動性神経系の2種類
大脳皮質から脊髄を下行し、痛覚情報の伝達を抑制する系。脳から脊髄へ神経伝達物質のノルアドレナリンとセロトニンが放出されて痛覚情報を抑制する。
③ゲートコントロール説:
痛みが傷害部位の圧迫などにより軽減する事はよく経験されることである。侵害性の情報を伝える細い線維の情報伝達が、非侵害性の情報(触覚や圧覚など)を伝える太い線維の興奮によって抑制されるというものである。
④広範囲侵害抑制性調節:身体の他の部分に加えた侵害性刺激によって痛みが抑制される。
痛みの治療
痛みの緩和のためにどのような治療をしたらよいでしょう?
1 薬物を用いる薬理学的な方法: 体内の鎮痛機構①②に対応
- 局所麻酔薬(リドカインなど)
- 非麻薬性鎮痛薬(アスピリンや インドメタシン など)
- モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬
- 精神安定薬や抗抑欝薬などの向精神薬
2 種々の物理療法(温熱 、マッサージ、電気刺激 など):体内の鎮痛機構③④に対応
マッサージなどにより、 痛覚閾値が高くなるという研究結果も得られている。
3 催眠や瞑想などによる心理的な方法
痛みの原因のみならず、身体の疾患に伴う痛みにおいても薬理療法や物理療法が改善をもたらさない時に有効であることがある。
リハビリによる痛みの緩和
物理療法の活用
炎症の時期が過ぎたら、ホットパックなどで温めると血行促進と、リラックス効果が得られます。家庭ではハンドタオルを濡らしてしぼり、ラップで包み、電子レンジで20〜30秒位温めると、ホットパックの代わりになります。
低周波の利用:家庭用低周波も安価に売られており、お勧めです。刺激の強さを細かく調節でき、いくつか刺激のパターンがあるものを選ぶと良いでしょう。筋肉が緊張(収縮)したままになっている時、電気刺激により筋肉が収縮、弛緩を繰り返すことで、弛緩しやすくなります。また筋肉が収縮・弛緩を繰り返すことで血行も良くなり、痛みの緩和につながります。
「触れるケアの効果 」山本裕子より抜粋
触れるケアは副交感神経を優位にする効果がある。繰り返し皮膚に触れる行為によりオキシトシンが分泌し、その効果は長期間にわたって持続する。
(オキシトシンの効果:母乳の分泌促進、陣痛の活動開始、痛みの限界度上昇、胃腸の活動促進、攻撃性の減少と恐怖感の緩和、落ち着き、脈拍と血圧のコントロール、結びつきの強化、記憶力の維持、恒常性の維持)
1秒に5cmほどのゆっくりしたスピードで最もリラックス効果が得られ、逆に1秒に20cm程度の速度で触れた場合は交感神経が優位になり覚醒度が高まる。副交感神経の応答を引き出すには、触れる圧力が400~800g位が適切で、手に圧をかけて疼痛部位の周りを撫でることが最もゲートコントロール理論にかなった触れかたと言える。そして、手で大きくかつ長いストロークで触れるケアを行うことで血液循環も促される。
「ゲートコントロール説」や「触れるケアの効果」からみえてくる理想的なマッサージとは?
①1秒に5cmほどのゆっくりしたスピードで、400〜800gの圧をかけて長いストロークでマッサージします。ちょっと触れられただけでも痛みが走る場合は、②圧覚として刺激が認識されるように、ピンポイントで(母子圧で)1箇所につき10〜30秒かけてゆっくり圧を加えていきます。素早い短い刺激は痛みとして感じられやすいからです。
私自身のマッサージの大まかな流れとしては、①のマッサージを5〜10回行い、「これから触っていきますよ、刺激を加えていきますよ」というメッセージをまず送ります。それから②のように個々の筋肉の緊張緩和を図っていきます。
<身体のどの部位からマッサージを行うか>
全身を行う場合は中枢から(頭部に近いところから)末梢に向かって筋緊張を緩和させていきます。つまり頸部、前胸部、肩甲帯、上肢、背部、骨盤周囲、下肢のような順序で行っていきます。リラックスさせたい時、よく「肩の力を抜いて」と言うように身体の中心近くに力が入っていたら、他の部分の力も抜きにくいからです。
<声かけ>
筋緊張の強い箇所に触れたら、ここが痛いですか?大丈夫ですか?などの声掛けもしましょう。痛い箇所と認識した上でのアプローチとわかれば、マッサージを受けている側も安心できます。(この人、痛いって本当にわかっているのかな?と不安に思うと、交感神経も興奮し、血行不良、痛みの増加につながってしまいます。)
<触り方>
セラプラスト(リハビリ用粘土)は早く強い刺激に対して硬くなり、ゆっくり穏やかな刺激に対してはゆるみます。それと同じように、筋膜や筋肉への刺激もゆっくり長めに穏やかに加えるとゆるみやすく、必ず相手の筋膜や筋緊張の変化を自分の手で感じながら行います。
「手で感じながら」ということは自分自身のインプット(感覚入力)をアウトプット(運動出力)より優位にするということです。
疼痛緩和 まとめ
①まずは痛みを理解しましょう。(部位、原因、今現在治癒期間のどの時期にあるか)
もし、あなたが作業療法士(OT)もしくはセラピストなら、痛みについて利者さんへ説明しましょう。
痛みを理解し、不安が軽減することで、交感神経を興奮させずにすみます。正確な知識を得て、適切な安静、適切な運動の開始ができれば二次的な障害を予防できます。
②適切な痛みの時期の対応
炎症範囲を最低限に抑え、安静時痛の緩和を目指します。
原因部位に対して安静、アイシング(冷やす)、固定、ポジショニング、運動の制限(無理をして動き、痛みが増大することを防ぐ)、薬の服用などを行います。
その他の部位は、受傷時の身体全体のこわばりが続く、痛くて力が入ってしまう、痛い部位をかばって動き他の部位に負担がかかる、等の二次的な血行不良や筋緊張亢進がみられます。全身の筋緊張緩和、血行改善をはかっていきます。
③適切な運動:安静時痛が収まってきたら、運動を徐々に再開します。まずは痛みのない範囲で実施します。動いても痛くない経験を積み、余分な力が入ってしまうことを防ぎます。動作時痛がないことを確認しながら、日常生活のできることを増やしていきます。
動作時痛があっても動かないといけない場合のポイントは、「その動作をするときは痛くても、動いていないときは痛みがない」ということです。その動作をすると、痛みがしばらく残る、続くというときは負荷が少し大きいということです。そうなると負荷を減らす工夫が必要です。(体重を載せると痛い場合は杖の使用、深く曲げると痛い場合はサポーターやテーピングなどで可動域をわざと制限するなど)
④筋力トレーニング:動作時痛がなくなってきたら、筋力トレーニングです。但し負荷なし・重力除去肢位で数回行ってその場で痛みが出ないか、あとからも痛みが出ないか。痛みがでなければ少しづつ回数を増やしていきます。
高齢になってくるとまず1回やって痛くないか、痛くなければもう1回、もう1回と増やしますが、初めは3回位にとどめた方が良いでしょう。次回までに痛みが出なければ、回数を少し増やします。
そして10回行っても痛みが出なければ、今度は自重をかけて痛みなく行えるか確認していきます。これも少しづつ回数を増やしながら行います。自重(抗重力)にて10回痛みなく行えるようになったら、今度は負荷をかけて行います。
高齢になってくるとここまで時間がかかると思いますが、痛みなく行うことが結局は回復への早道になります。「リハビリの時間だけ頑張って、痛くてリハビリ以外では動かない」となってしまったら、本末転倒です。痛みがなければ、活動量も少しづつ増えていきます。
実際のリハビリで残念な例をよく見かけます。安静時痛(動作時痛)があるのに運動をさせて痛みが長引く、痛い場所をかばって動くため全身の筋緊張亢進、血行不良、患部の治癒も遅くなるという悪循環に陥ります。
高齢の方に、運動をいきなり自重(抗重力)で10回行い、痛みが出て日々の活動量も落ちてしまい、筋緊張緩和・痛みの緩和、運動再開までやり直すのにまた始めの方からやり直さなくてはいけない場合。
若い人は動作時痛がなくなれば、回数を増やすのももっと早いでしょうし、負荷の増やし方も早くなるでしょう。
備忘録:短縮した筋組織は力を出せない。筋組織は収縮する時力を出すので、短縮したままでは十分な力を発揮することができない。つまりは十分な筋力を発揮するためにも筋緊張緩和が必要ということです。