1995.4:作業療法士国家資格取得
経験年数25年
7年間リハビリテーションセンター勤務
以降 介護保険系サービスに従事

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「上腕骨外側上顆炎」通称テニス肘

疾患別リハビリ

症状

手首に負担がかかる動作を行った時、肘の外側から前腕にかけて痛みが起こる症状のこと。

「手首を反らせる」「内外にひねる」「指を伸ばす」動作、日常生活では「タオルを絞る」「桶で風呂の湯を汲む」「片手で牛乳パックやビールをコップに注ぐ」「手を伸ばして遠いものを取る」「物をつかんで持ち上げる」「包丁を使う」「ホウキを使う」「ドアノブを回す」「キーボード操作」等で強い痛みを感じます。

病態

上腕骨外側上顆付着筋(短橈側手根伸筋ECRB、長橈側手根伸筋ECRL、総指伸筋EDCなど)の中の一つである「短橈側手根伸筋腱」の炎症。ECRBは他の筋と比べきわめて薄い腱のため傷みやすいと考えられています。ECRBの腱に微小な断裂ができ、さらに腕を使い続けると、腱の微小な断裂は修復が追いつかず、隙間ができたり、石灰がたまり変性が起きてきます。

受傷転機:繰り返しの動作で筋疲労が蓄積し発症

テニスなどのスポーツ

職業病(重い荷物を運ぶ運送業、料理人、大工などの手首を良く使う仕事が原因で発症)

30~50代以降

中高年の主婦(女性で筋力が弱く、家事など腕を使う動作が多い

診断・検査

①②③いずれかのテストで肘の外側から前腕にかけての痛みがある場合には、テニス肘と診断。

①Thomsenテスト

患者は肘を伸ばし手首を上に反らした状態(肘伸展、手関節背屈位)を保つ。検者が掌屈方向に力を加えた時、肘の外側に痛みが出るか。

②chairテスト

肘を伸ばした状態で椅子を持ち上げ、肘の外側に痛みが出るか。

③中指伸展テスト

患者は肘を伸ばしたまま中指を伸ばした状態(肘伸展、中指伸展位)を保つ。検者が中指を屈曲方向に力を加えた時、肘の外側に痛みが出るか。

レントゲン検査

骨折など他の疾患との判別。慢性化すると炎症腱にカルシウム沈着・石灰化し、レントゲンで短橈側手根伸筋付着部に白くもやもやしたものが写ることがあります。

超音波検査

腱や付着部の炎症、微細な損傷などを確認する

治療法

保存療法:1年の経過で70~80%が自然治癒

①安静:症状が落ち着くまで、発症のきっかけとなった動作を控える。

②アイシング

③消炎鎮痛剤:非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服や湿布

④局所麻酔薬とステロイドの注射:急性期では効果的。即効性(翌日には痛みの改善)があり、1~2ヵ月程度の鎮痛効果。慢性期ではあまり効果がみられない。

繰り返しのステロイド注射により伸筋腱付着部の瘢痕化、脆弱化を招く可能性がある。

⑤テニス肘用のバンド装着

⑥物理療法:温熱療法やレーザー治療

⑦リハビリ:長期的に見るとリハビリによる治療が最も効果が高いという調査報告あり。

手関節や手指のストレッチ、手関節のマニピュレーション、肘関節のモビライゼーション、肩甲帯・体幹へのアプローチ、筋力トレーニングなど

手術療法:保存療法が無効な場合には、手術療法を行うこともあります。

筋膜切開術、切除術、前進術、肘関節鏡視下手術など。短期的には有効。長期的な経過は報告されていない。

リハビリテーション

安静、固定(バンド装着など)やアイシングにより炎症症状を短期間で改善し、二次的な障害(ROM制限や筋力低下など)を予防する。

肩甲帯、体幹へのアプローチ(肩甲骨のモビライゼーション、体幹回旋ストレッチ)※1

手内筋リラクゼーション、手部のモビライゼーション

手関節のマニピュレーション※2

前腕筋へのリラクゼーション:短橈側手根伸筋とともに同じ起止部の長橈側手根伸筋、腕橈骨筋も緊張緩和させる

体幹の安定性:体幹・下肢の安定性低下により、上肢のの負担が増加※3

筋力トレーニング:炎症症状や疼痛があり、行なうことができないことも多い。

症状が長引き、慢性化したテニス肘は、筋力を強化するためのトレーニングが有効です。

軽めのダンベル(重さ1㎏程度)やチューブを使い、手首の関節の曲げ伸ばし運動を行います。

手の使い方の練習:長橈側手根伸筋の活動を促す運動療法と把 持動作の指導※4

ADL指導

参考文献:

鈴木克彦(「上腕骨外側上顆炎に対する徒手的運動療法」理学療法ジャーナル38巻1号)

長橈側手根伸筋(ECRL)と短橈側手根伸筋(ECRB)は物を把持するときの手関節の固定作用と背屈作用があるため本棚から重い本を取り出すような肘伸展、手関節背屈を伴う把持動作で疼痛が発生する。しかし肘屈曲位で手関節掌屈を伴う把持動作は疼痛を生じない。

※1:山田裕司「上腕骨外側上顆炎に対する肩甲帯・体幹からの評価とアプローチ」第42回日本理学療法学術大会抄録

肩甲骨のモビラ イゼーション、Trunk Rotation Stretch(TRS )を行なうことで、肩甲骨周囲筋だけではな く、広背筋を介した胸腰筋膜も伸張を行なうことで、背部の筋緊張も低下すると考えられる。その結果により、上腕を介した筋連結により短橈側手根伸筋腱へのストレスが軽減し疼痛の低下・消失が期待できる。よって上腕骨外側上顆炎の治療に肩甲骨のモビライゼーション、TRS などの肩甲帯・体幹からのアプ ローチは有効であると判断した

※2:奥村哲夫「上腕骨外側上顆炎に対する手関節のマニュピレーション」理学療法ジャーナル38巻7号

①手関節マニュピレーションのみの群と、②超音波、マッサージ、ストレッチ、筋力強化の群と比較してROM、圧痛、握力、疼痛などの改善がみられた)

※3:斉藤嵩「上腕骨外側上顆炎に対する姿勢からの1考察:姿勢によりかかる上肢の負担」第45回日本理学療法学術大会抄録

上腕骨外側上顆炎の姿勢による疼痛の違い、上肢のROMの違いについて検討。

座位姿勢が上肢にかかる負担が一番強く、不良座位での仕事等が負担になっていると予測。

今回の結果では姿勢により、痛みの強さが変わる例も多数あり、上腕骨外側上顆炎においても姿勢の関与による負担増加が示唆される。

コアスタビィリティの低下や下肢の安定性低下により、不良姿勢が起こされる。その不良姿勢により、上部体幹部、大胸筋、大円筋等に負担がかかり、外旋角度が低下したと考えられる。肩甲骨周囲の緊張増加により2関節筋である上腕二頭筋、上腕三頭筋の緊張も高まり、肘関節においての単関節筋の収縮が入りにくくなる。さらに多関節筋が優位な状態になる。これらにより、肘関節の安定化は得られず、靭帯や筋への負担が増加することにつながる。これらのことにより、ストレスを受け疼痛につながったと考えられる。

※4矢作 賢史ら 「長橈側手根伸筋の機能に着目し運動療法を実施した上腕骨外側上顆炎の一症例」理学療法26巻1号

長 橈側手根伸筋と短橈側手根伸筋の手関節に対する作用は異なるものであり,長橈側手根伸筋の活動を促す運動療法と把 持動作の指導が上腕骨外側上顆炎の治療においては重要になると考える。

<上肢の機能・役割>

肩甲帯:安定した固定性が求められる

:身体と操作したい場所との位置関係(方向、距離)から、大まかな方向を決める。

:距離の調整を担う。遠い場所に対しては肘伸展、近い場所に対して肘屈曲で距離を調整する。

前腕:手掌の向きを調整する。回内外により、操作したい面と手掌の面を平行にする。

手関節:掌背屈、橈尺屈により、最終的な角度の微調整を行う。

手部:操作しやすい形状(アーチ、手のフォーム)を作る。

手指:操作、巧緻性。手指の動きのパターン。

上肢の一部に痛みが出た時、疲労・炎症・損傷がみられるのはその一箇所にはとどまりません。上腕骨外側上顆炎の場合は、手関節背屈での筋疲労が蓄積し症状が発症します。その作業は手関節背屈とともに、何かの操作をしているはずです。操作したいからこそ、操作しやすい位置に固定する。その固定のためには体幹・肩甲帯・肩・肘・前腕・手関節それぞれの働きも必要です。そして、そもそもは操作するために、操作しやすい位置に安定的に固定するわけですから、固定するための筋が疲労するくらいだから、操作するための筋(手内筋や手指屈筋・伸筋)も疲労していないわけがない。小さな筋ほど疲労しやすいのです。そのことを頭に入れたならば、アプローチは見えてきます。

疲労のリレー

物を操作する時、手指の屈伸だけでなく、必ずといっていいほどアーチを作ります。人間の手は親指と他の指との対立動作がメインで物を操作します。アーチを作らず、手指の屈伸だけでは細かい操作はできないし、疲れやすいからです。アーチを作るためには手内筋の働きが必要です。小さい筋なのですぐ疲労します。すると代わりに、より大きい他の筋が働き出します。疲労もリレーしていきます。その働きに耐えられなくなると痛みが出てきます。

<てこから考える上肢>

肩:支点 上腕骨外側上顆:力点 手関節:作用点

肘:支点 上腕骨外側上顆:力点 手関節:作用点

支点ー作用点の距離が、支点ー力点の距離よりも長い場合、力点に加えた力よりも小さな力が作用点に加わる。

つまり操作に必要な力よりも大きな力が外側上顆に加わっていることになる。肩を支点とするのか、肘を支点とすのかでも、負担が変わってくる。机上の作業なら、肘や前腕をつき支点とすることで負担の軽減がはかれます。これらのことを視野に入れ環境設定を行います。

また、手関節背屈位での作業では背屈筋に負荷がかかり続けるため、掌屈位となるようポジショニングが必要となってくる。パソコン操作ならリストレスト使用など積極的に行うとよいでしょう。

「上腕骨内側上顆炎」:通称「ゴルフ肘」

物を握る動作や掴む動作の繰り返し、抵抗がかかる状態で手首を何度も手のひら側に曲げることによって、肘の内側(尺側手根屈筋腱の付け根)に微細な損傷が起こるために痛みが生じます。

肘の角度・運搬角(二の腕の骨と肘から手首までの骨がなす角度)が大きい場合においても痛みが生じる、または増強することがあります。

工具を頻繁に使う職種や包丁を多用することでも発症することがあります。日常では、フライパンを煽る動きや雑巾などを絞る動作、レンガ積み、金槌の使用、タイピングなど。

上腕骨内側上顆に付着する筋肉は

・尺側手根屈筋

・長掌筋

・橈側手根屈筋

・浅指屈筋

・円回内筋


リハビリについては上腕骨外側上顆炎に準じて考えて頂ければよいと思います。