1995.4:作業療法士国家資格取得
経験年数25年
7年間リハビリテーションセンター勤務
以降 介護保険系サービスに従事

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痛みの種類② : 神経障害性疼痛

痛みについて

前回の続きです。

神経障害性疼痛

何らかの原因により神経が障害され、それによって起こる痛みを「神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)」といいます。

脊椎性神経障害」と「絞扼性末梢神経障害」に分けます。

脊椎性神経障害(脊髄の圧迫による痛み)

脊髄部分の圧迫による脊髄症と、神経根部分の圧迫による神経根症に分けられます。

診断名としては圧迫の原因別に、後縦靱帯骨化症(頚椎に多い)、黄色靭帯骨化症(胸椎に多い)、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、変形性関節症(頚椎症、分離・滑り症)、脊髄・硬膜腫瘍、急性脊髄硬膜下出血など

レントゲン、CT、MRIなどの検査で診断します。

神経症状回復に影響する因子として、
i)脊髄症状の重症度
ii)罹病期間
iii)画像所見(多発病変、脊髄圧迫の程度、脊髄髄内の輝度変化など) などが有ります。罹病期間が長く術前神経症状が重篤なほど、また画像上脊髄の圧迫が高度で多椎間にわたって脊髄が圧迫されていたりすでに脊髄損傷を認める場合には、術後神経症状の回復は限界があります。

参考まで

椎間板ヘルニアは安静(数週から1ヶ月程度)により、5〜8割の方が(ヘルニア)自然吸収されます。

頚椎症や脊柱靭帯骨化症(後縦靱帯骨化症や黄色靭帯骨化症)は手術による神経症状の改善度は約60%(30~80%)と報告されています。手術後も筋力低下や巧緻動作(手指の細かな動き)の障害、しびれなどが残ります。きれいさっぱり症状が改善するということは、少ない印象です。

〜今後の期待〜

脊髄損傷で半身不随になった身体が再び動くようになる。

本望修教授(札幌医科大学、医学部神経再生医療学部門)の長年の研究により、脊髄損傷患者を対象とした間葉系幹細胞による治療の保険適用が開始された。患者本人の骨髄液を採取し骨髄間葉系幹細胞(MSC) を培養、静脈注射で点滴するという治療法。一度の点滴で効果は2年間位続く。脳梗塞の治験も2007年から続いており、ALS (筋萎縮性側索硬化症)などの神経難病、さらにアルツハイマーなどにも適用拡大できる可能性があると期待を寄せられている。

(間葉系幹細胞を使った治療では、間葉系幹細胞をどう採取し、どう培養するかで、効果が全く違うものになるのです。類似治療にはご注意下さい)私もこの治療法が様々な疾患に早く適用されるのを期待しています。

絞扼性末梢神経障害(末梢神経の圧迫による痛み)

☆末梢神経の圧迫部位により分けられます。ここでは、何により圧迫されているかでグループ分けをします。

神経が通るトンネル部分の問題(靭帯肥大、滑膜性の腱鞘のむくみなど)による末梢神経の圧迫

手根管症候群、肘部管症候群 、足根管症候群  など

安静、注射、消炎鎮痛剤やビタミン剤服用などの保存療法を行います。症状が強まる場合は手術も考えます。

骨折、怪我、ガングリオンなどによる末梢神経の圧迫

橈骨神経麻痺 、腓骨神経麻痺   など

脱臼などの外傷や腫瘤によるものは早期に手術が必要です。原因が明らかでないものや回復の可能性のあるものは保存的治療をします。

関節の変形(関節軟骨の摩耗、骨棘形成、関節内遊離体、骨頭の肥大など)による末梢神経の圧迫

野球肘、変形性肘関節症:尺骨神経麻痺 など

安静などの保存療法を行います。症状によっては手術が必要です。

筋肉の過緊張による末梢神経の圧迫:筋肉の緊張緩和をはかります。

胸郭出口症候群 (斜角筋や小胸筋の過緊張による腕神経叢圧迫)

梨状筋症候群(梨状筋の過緊張による坐骨神経痛圧迫)

末梢神経の損傷の度合い(分類)

一過性神経伝導障害:軸索の断裂を伴わず、数日から数週間、通常 12 週間以内に完全回復する

軸索断裂:日に1mmの速度で回復

神経断裂:自然回復は期待できず神経縫合術の適応

神経障害性疼痛を緩和させるには、神経を圧迫している原因を取り除く必要があります。根本原因を取り除くには手術がお勧めなのでしょうか?

手術は必要?

リハビリの立場からお伝えしたいのは、「手術をすれば、痛みやしびれがなくなる」という認識は間違いということです。

手術をして圧迫の原因を取り除くことで、神経が圧迫される痛みやしびれはなくなるでしょう。ところが手術が成功しても、手術したことによる痛み、しびれ(侵害受容性疼痛)が出ます。手術は皮膚や筋膜、筋、腱などを切開し縫合します。つまり、切られて縫われるのです。切られ、縫われたことによる痛み、しびれはあるのです。よく術後の方が「手術したのに痛い、しびれる、手術は失敗だったのでは?」とリハビリの場面で胸の内をあかしてくれます。手術による痛み、しびれの説明まではされないのです。私自身の経験から言えば術創付近(部位にもよりますが、5〜10cm位)は数年は痛み、しびれがあります。10年経過してもなお、術創部をさわれば痛みというか、しびれというか違和感があります。癒着がみられれば、さらに痛みやしびれも強くなります。

末梢神経障害の手術などで、手術痕が狭い範囲のものは痛みや痺れもごくわずかになります。どの位切るのか、どんな手術なのかよく聴いてみてください。末梢神経は旺盛な神経の再生能力があり、手術など適切な治療で回復が期待できます。手術の適応があれば、手術自体の後遺症があっても、リスクも少なく、手術される方が多いです。術後の癒着を防ぐため、回復を早めるためにもリハビリを行うことをお勧めします。

脊髄は末梢神経のような旺盛な神経再生能力はありません。術後神経の回復には限界があります。脊椎の手術で固定を伴う場合は、筋肉や腱を十分に動かせないことで血行不良になり、二次的におきてくる痛みも加わってきます。手術は発症から早い方がよい気がするものの、脊椎の手術はリスクも高いので、疑問に思うことは主治医に何でも相談し、納得されてから決断して下さい。

また、筋力低下や、感覚が鈍くなる、感覚がない(感覚鈍麻や脱失)、急激に症状が強まる場合、月日が経つにつれ痛みやしびれが強まる場合は早急に手術を検討した方がよいでしょう。そこまでではない場合、一旦立ち止まり考えてみてはいかがでしょうか?