1995.4:作業療法士国家資格取得
経験年数25年
7年間リハビリテーションセンター勤務
以降 介護保険系サービスに従事

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手根管症候群とは

疾患別リハビリ

<解剖学的特徴>

手根管:手根骨と横手根靭帯とからなるトンネル。正中神経と長母指屈筋腱(1 本)、示指から小指の深および浅指屈筋腱(4 本ずつ計 8 本)が通過。手根管症候群はこの部位に起こる、様々な原因によって生じる正中神経障害の総称。

<発症の要因>

先天性の手根管狭小を基盤に手首の屈曲・伸展による物理的負荷により発症

(1)手根管の内腔を狭める局所因子

屈筋腱の腱鞘炎,関節リウマ チによる滑膜炎、人工透析患者のアミロイド沈着、腫瘍、 ガングリオン、骨折など

(2)神経側の脆弱性

遺伝性圧脆弱性ニューロパチー、糖尿病性その他の多発ニューロパチー

(3)全身性要因

妊娠、浮腫、甲状腺疾患、原発性アミロイドーシスなど

(4)作業要因

頻回の手関節の掌屈・背屈動作、高い把持力、異常な手指の位置・つまみ動作や把握動作、振動器具の使用、1 週間 20 時間以上コンピュータのマウス操作などの上肢作業では屈筋腱の腱鞘炎が招来され、CTS 発症の誘因や悪化因子となりうる

また、女性に非常に多く、妊娠中、閉経後に発症するので女性ホルモンとの関連が示唆。

<症状・診断>

夜間早朝に増悪する手のしびれ感と痛み、手を使う時の増悪、手を振ることによる軽快、正中神経領域に一致する他覚的感覚障害(特に ring-finger splitting;環指正中線を境界とする感覚障害)、時に自覚的なしびれ感が小指を含む手全体、また手根管部から前腕、時には上腕に達する放散痛を訴えることがある。症状が進むと短母指外転筋の筋力低下、短母指屈筋、第一虫様筋の筋力低下、ピンチ動作が問題になる。Phalen 徴候、Tinel 徴候、母指球筋萎縮などの特徴的症候がそろっている場合には手根管症候群の診断はほぼ確実である。

<手根管症候群の治療>

35%の症例は未治療で改善が認められる。この自然寛解に関わる因子は、診断時までの罹病期間が短いこと、若年発症、一側性、Phalen 徴候陰性が挙げられている。これらの因子を考慮した上 で、筋萎縮が無く、疼痛・しびれが自制内である場合には、手首の安静を指示して経過を観察する。

保存的治療:

スプリント、ステロイドの手根管内注入、ステロイド内服,、非ステロイド系消炎薬、利尿薬、ビタミン剤、ヨガ、運動療法、超音波療法、レーザー灸療法などが試みられている。

※手根管内の腱鞘滑膜炎により、正中神経の圧迫が生じる。滑膜炎に対する治療によりCTS による圧迫症状は軽減する。

手術:

直視下手根横靱帯切開法、内視鏡的手根横靱帯切開法などがある。疼痛が高度な場合、筋萎縮、軸索変性がある場合に手術が行われることが多い。

<手根管症候群のリハビリ>

スプリント療法、物理療法(温熱療法・超音波療法)、関節モビライゼーション、軟部組織モビライゼーション(皮膚および皮下組織の可動性向上、皮膚の伸張性)、関節可動域訓練、手首のストレッチ、腱のグライディングエクササイズ、手根横靭帯へのストレッチ、筋力トレーニング、生活指導など

神経の滑走を促す運動として手関節背屈位での運動

※手首のストレッチ、腱のグライディングエクササイズ:腱の動きにより周辺組織との癒着を防ぎ、神経の圧迫の軽減・しびれの軽減を目指す。

※手根横靭帯へのストレッチ:手根管アーチの開大・縮小を利用し手根横靭帯をストレッチし、浅指屈筋腱、深指屈筋腱や正中神経の手根管の滑走の改善をはかる

<手首のストレッチ>

①親指を中にして手首を小指側に曲げる

②手首と指の伸筋のストレッチ

③手首と指の屈筋のストレッチ

浅指屈筋と深指屈筋の確認


MP屈曲は浅指屈筋、深指屈筋、掌側骨間筋、背側骨間筋、虫様筋

PIP屈曲は浅指屈筋、深指屈筋

DIP屈曲は深指屈筋

<腱のグライディングエクササイズ>

基本姿勢:手首、指をまっすぐにした状態から始まる

手根管内を滑走する浅指屈筋腱、深指屈筋腱の動きを促す運動。それぞれの肢位を5〜10秒ずつ、5セット行います。

①握りこぶし:腱鞘と骨に対して深指屈筋腱が大きく滑ります。

②伸展握り:腱鞘と骨に対して浅指屈筋腱が大きく滑ります。

③視床手:手内在筋優位の手

手根管症候群進行期では手内筋の麻痺もみられる

④鉤握り(引っ掛け握り):浅指屈筋と深指屈筋の間で腱が大きく滑ります。

<横手根靭帯のストレッチ>

<ハンドセラピィの考え方と目的>

腱損傷に伴い皮膚・腱鞘・滑膜などの腱周囲軟部組織が同時に損傷され、同一の場で炎症反応が生じ、 損傷組織が同時に修復されて癒着が生じる(one wound one scar)。 そこで縫合術後のセラピィでは、 スプリントの作製と、術後に縫合部に負荷をかけない方法で腱を滑走させることで、腱と周囲組織との癒着を最小限に防ぎ、修復腱の良好な滑走性が獲得できる。

セラピィの目的は縫合された腱と周囲組織との癒着および再断裂を防止しながら腱の癒合を図り、 関節拘縮を予防して最大自動滑走を回復させ、手指の機能を獲得させることである。

骨関節疾患に対する関節モビライゼーション        

竹井 仁   理学療法科学 20(3):219ñ225,2005 より抜粋

<モビライゼーションとは>

①軟部組織モビライゼーション(soft tissue mobilization)

②関節モビライゼーション(joint mobilization)

③神経モビライゼーション(mobilization of thenervoussystem /neutral tissuemobilization)

関節モビライゼーションとは,さまざまな治療目的に応じ,低速度かつさまざまな振幅で種々の可動範囲を反復的に動かす他動運動である。治療体系には,治療面に対して持続的な直角方向の牽引や平行滑り運動を用いるKaltenbornの持続的伸張法や,三次元的空間の中で症状が再現される方向を見出し, それを改善するような方向へのMeitlandの振動法と持続的方法などがある。また,関節可動域制限を回復する ための他の手技として,可動範囲の最終域で行われる小 振幅の瞬間的な高速スラスト(thrust)を用いる関節マニ ピュレーション(joint manipulation)がある。

<関節系への構造的アプローチの種類>

1.関節モビライゼーション(joint mobilization):セラピ ストが他動的に,低速度かつさまざまな振幅で種々 の可動範囲を反復的に動かす方法

2.関節マニピュレーション(joint manipulation):関節 のゆるみ(slack)を取った可動範囲の最終域で行わ れる小振幅の高速スラスト(thrust)

3.Muscle Energy Technique:関節機能異常の原因となる 筋群を,患者自身の等尺性筋収縮後弛緩を利用して 自動的に関節のアライメントを正常化する方法

4.Mulligan Concept:患者が症状を訴える姿勢と動作を, 痛みをださないように患者の自動運動を用いてモビ ライゼーションする方法

5.関節ファシリテーション(joint facilitation):関節内 運動と接近を利用して関節機能異常を治療する方法

<関節モビライゼーションの効果>

1. 小さな振幅の振動と離開の動き メカノレセプターを刺激して,脊髄あるいは脳幹レ ベルの有害受容器反射を抑制することで疼痛を軽減

2. 小さな振幅の関節面の離開と滑り 関節軟骨への滑液の流れを改善し,栄養供給を助け, 疼痛や退行性変化を防止

3. 漸増的かつ強い力による関節の遊びの伸張 低可動性の関節包と靱帯状結合組織を伸張

4. ある一定の関節の不動時期に,利用可能な関節の遊 びを維持するために伸張のない滑りや離開の技術 不動による退行性変性や可動域制限を防止

<Kaltenbornのグレードによる関節モビライゼーションの 評価と治療>

1. 疼痛の軽減:グレード I – II。SZ 肢位:実際(患者の関節可動域制限の程度に応じた)の安静肢位。手技:牽引あるいは小振幅での振動

2. リラクセーション:グレード I – II 。肢位:実際の安静肢位。手技:牽引

3. ストレッチ:グレード III 。肢位:実際の安静肢位および関節可動域の制限がある角度。手技:牽引あるいは滑り(グレード I の牽引と同時)

物理療法や軟部組織モビライゼーションを事前に施行することあり。