全骨折の中に占める割合が16~20%
若年と比べ70歳以上では男性で2倍、女性で17.7倍
受傷転機
転倒が49~77%、若年男性は転落・交通事故などの高エネルギー骨折が多い。
危険因子
高齢、女性、低体重、BMI低値、独居など。
骨折形態
背側が圧倒的に多く、関節外骨折54~66%、部分関節内骨折が9~14%、完全関節内骨折が25~32%。遠位骨片が背側変位したコレス骨折が大半、掌側変位したスミス骨折やバートン骨折など。
合併症
・尺骨茎状突起骨折:合併率51.8~65.9%
・長母指伸筋断裂:通常骨折後1~2か月に突然起こる。母指が伸展できないことで明らかに なる。断端縫合の修復は不可能で、示指伸筋の腱移行が必要。腱移行後は伸筋腱の移行術後のハンドセラピーを施行する。
・正中神経麻痺:受傷時またはその後に生じた神経周囲の出血や骨片による圧迫で生じる。
・舟状月状靭帯(SL)の損傷:単純エックス線像では4.7~41.1%、関節鏡では26.3~54.5%、MRIで6.7~28.9%、関節造影では36.4%。SL損傷から舟状骨月状骨間離開が生じ、月状骨が背側に回転する手根不安定症が発生する。
・その他:手根管症候群、変形性手関節症、変形性橈尺関節症、屈筋腱皮下断裂(掌側ロッキングプレートと屈筋腱の摩擦による)など
治療:
・手術:20~30%
創外固定法、経皮鋼線刺入法、掌側ロッキングプレート固定など
一般的に創外固定6週間、プレート固定4週間。
・保存療法70~90%
徒手整復とギプス固定
物理療法:超音波パルス、電気刺激
リハビリ
予後
骨折後6カ月まで機能回復は大きく進み、骨折後1年以上にわたり緩徐に回復が続く。骨折後6ヶ月の時点で手関節背屈可動域と握力は十分に回復する。握力の回復は可動域の回復よりも時間がかかる傾向がある。また変形治癒例では握力と可動域が正常まで回復することは困難な場合がある。
※変形治癒:遠位骨片の背側転位、橈骨の手関節面の掌側傾斜消失、尺骨プラス変異など。橈骨の骨短縮も起こりやすい。
リハビリ
・骨折の治療中には肩や手指の拘縮も生じることがあり、手関節部の固定期間中でも手関節以外のリハビリテーションとして患側の肩肘手指の可動域訓練や健側の筋力強化、可動域訓練を行う事は拘縮予防や早期回復が期待できる。
・作業療法士が介入して通院リハビリテーションを行った場合とリハビリテーションプログラムを患者本人に指導し自宅で練習した場合とでは有意差は認められない。骨折後には患者本人がリハビリテーションの具体的な内容を理解し行えるように指導する事は機能回復に有用である。ただし通院でのリハビリテーションは拘縮が強い症例等には有用であり、また患者の満足度も高い。
指の拘縮:手背の浮腫によりMP関節の伸展拘縮、母指内転拘縮が発生しやすい
Ⅰ期
浮腫軽減
手指拘縮(MP関節の伸展拘縮、母指内転拘縮)予防:MP他動屈曲→MP・PIP・DIPの同時屈曲(他動、自動)、母指他動的外転位維持
健側及び患側の他の関節の機能維持(可動域訓練、筋力強化)
癒着腱の伸張
Ⅱ期:骨折安定、キャストや創外固定除去
手関節と前腕の自己他動運動や自動運動などを中心とした軽度な運動を行う。
①手関節
愛護的な他動運動
↓
リストラウンダー(回転運動により手関節掌背屈、撓尺屈)
↓
手関節掌背屈器(軽い負荷にて最大可動域維持)
↓
軽い物体を保持しながら手関節背屈(指伸筋と分離させて手関節伸筋の活動を促す。橈側手根伸筋は回内位での筋力強化が効果的)
↓
屈筋腱癒着がみられたら:手関節掌屈位での指の自動運動 グライディングエクササイズ
指伸筋腱癒着がみられたら:手関節背屈位での指の自動伸展
②前腕
自動回外、回内運動(回外優先)
↓
クランクバーを軽く把持し回外、回内運動
※Ⅰ、Ⅱ期通し、運動時、手関節部および前腕背側で轢音や患者が違和感感じたら、長母指伸筋腱断裂可能性を考え無理な運動を避け、医師に報告する。
Ⅲ期:骨癒合完成
他動的な負荷と積極的な筋力強化
①手関節
少し強めの自己他動運動(オーベルトが効果的) ※痛みが持続しない程度の負荷
↓
積極的な他動運動(手関節背屈器:これまでよりやや強いストレスで30分間の持続的他動運)
圧迫訓練:患手を傾斜台の上につき上体を前方、 もしくは側方に傾斜させて手関節に体重をかける
②前腕
スプリントで持続的な可動域訓練
棒を使用した自己他動回内外運動
※運動後30分以上痛みが続く場合、運動負荷が大きすぎる
参考文献:作業療法士のためのハンドセラピー入門、三輪書店、中田眞由美、大山峰生
橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2017 Mindsガイドラインライブラリ